BANANA FISH』という漫画をご存知だろうか。1985 年頃のアメリカを舞台に、 N.Y. ストリートキッズグループのボス 「アッシュ」 とその仲間が、 マフィアの開発する BANANA FISH の謎をめぐって米軍も絡んだ大きな戦いに巻き込まれるという話で、僕的には大の名作だ。
 僕が初めてこれを読んだのは、連載がとっくに終了した 1990 年代半ばだったのだが、そのときにひどく違和感を感じたシーンがある。秘密を知る教授の自宅に入り込んだアッシュたちが、教授のパソコンから何か有用なデータを引き出せないかを試みるシーン。パスワードセキュリティをかいくぐった彼らは、続けてパソコンにこんな風に打ち込むのだ。

What is the "BANANA FISH"?( バナナ フィッシュ トハ ナニカ? )
「バナナ フィッシュ」ニ カンスル ジョウホウ ヲ テイキョウ セヨ

パソコン内のデータを「探す」のではなく、パソコンに「質問して」いるのだ。1980 年代のパソコンに。

振り返ってみると、パソコンが一般家庭に普及し始めるよりも以前、コンピューターに対して市井の人々が抱いていたイメージは、まさにこういうものではなかったか。コンピューターはそのころ多くの漫画で、何にでも答えを返す万能の「電子頭脳」と表現されていた。

その後、パソコンが身近になり、いわゆるコンピューターというものが「何でも知ってる魔法の箱」ではないことが世の人々に広く知られていく。用意されているプログラムの能力の範囲でしかコンピューターは働けないこと。主にワープロソフトや表計算ソフトを動作させるのが私たちにとってのパソコンなんだということ。こういうことが一般常識になり、そうして、パソコンに質問するという行為に違和感を感じるようになったのだ。

そこで、今回の本題 Wolfram|Alpha である。

Wolfram|Alpha は、Mathematica の開発者 Stephen Wolfram が、2009 年 5 月にリリースしたウェブサービスサイトで、いまも日々機能追加が行なわれている。僕は、この Wolfram|Alpha が目指しているのが、BANANA FISH に出てきた「質問にこたえるコンピューター」だと感じている。

Wolfram|Alpha は、例えばこんな質問にこたえてくれる。

もちろん、Mathematica らしく方程式を解いたり微積分を行なったりすることも可能だ。

Wolfram|Alpha のさまざまなサンプルを駆け足で紹介してくれる日本語吹き替えした 13 分強のスクリーンキャストが、次のアドレスで公開されている。これを見ると、Wolfram|Alpha がどういう質問に答えてくれるものなのか、雰囲気がつかめると思う。
http://www.wolframalpha.com/screencast/introducingwolframalpha_ja.html

Wolfram|Alpha の公開を控えた 2009 年 3 月、Stephen Wolfram はブログで Wolfram|Alpha について次のようなことを書いている。

50 年前、 人々はコンピューターというものが、 すべての系統的な知識を扱えるようになると思っていたが、 そうではなかった。 <中略> 私はそれが可能であるべきだと思っていたが、数年前、私自身がこれに挑戦する立場にいることに気付いた。
http://blog.wolfram.com/2009/03/05/wolframalpha-is-coming/

Wolfram|Alpha 登場時にそれを紹介した記事の多くには「新しい検索サービス」「Google キラー」などといった言葉が並んでいたし、いまでも Google との比較で Wolfram|Alpha を語る人は相変わらず多い。だがそれらは的外れだと僕は思う。Wolfram|Alpha は、検索サービスサイトではないのだ。

ちなみ(?)に、この Wolfram|Alpha、かなり大掛かりな設備を使って実現しているようなのだが、その準備段階のサーバー室セットアップ作業の様子が YouTube にアップロードされている。いくつものラックにたくさんの DELL マシン。ストレージの量もすごそうだ。このムービー自体が丁寧に編集されていることも、気合いのほどが垣間見えるようで楽しい。

ところで、こういう様子を公開するのって、セキュリティ的に大丈夫なのかしらん。

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もう何年も前ですが、コンピュータに音声で質問するという話題では、スタートレックの1シーン
http://www.youtube.com/watch?v=19BWJQ8kjrw
も話題になったのを思い出します。
もう一つは、もちろん「2001年宇宙の旅」のHAL9000ですね。そこでWolfram|Alphaに尋ねてみましょう。
http://www.wolframalpha.com/input/?i=HAL+9000
この結果は、Wolfram Researchの本社の所在地をご存知の方には面白いと思います。

Wolfram|Alphaという名前を知った時、AlphaとOmegaをひっかけたなぁと思いました。聖書にある
  「わたしはアルファでありオメガである。」 - ヨハネの黙示録1:8
  http://en.wikipedia.org/wiki/Alpha_and_Omega
またまたWolfram|Alphaに尋ねましょう。すると正直に答えます。
http://www.wolframalpha.com/input/?i=Wolfram+Omega
もう覚えている人も少ないと思いますが、昔のMacintoshは、クリエーターコードという4文字の識別子をアプリケーションに割り当てていました。拡張子のように、そのファイルを生成したアプリケーションと関連付ける方法です。MathematicaのクリエーターコードはOMEGでした。MathematicaというのはNeXTに搭載するときにSteve Jobsが名付けたと言われています(それまで、MathematicaはOmegaという名前だったんじゃないかな)。

すごいですね、ふじむらさん。何でもご存知なんですね。びっくりしました。Mac 版のクリエーターコードが OMEG だったのはそういう訳だったんですね。

ちなみに、Mac 版では今でもクリエーターコードは生きていて、例えば、Mac 版 Mathematica で作成したノートブックファイルのファイルタイプとクリエーターを調べたら、ちゃんと OMEG になってました。

$ /Developer/Tools/GetFileInfo memo.nb
type: "TEXT"
creator: "OMEG"

ともあれ、いつもありがとうございます。

守谷さん、こんにちは。

ちょうど、ウルフラム・リサーチからお知らせが届きましたね。

>
> ●●Wolfram|AlphaがNHK「IT ホワイトボックス」で
>         8月12日に紹介されることになりました●●
>
>      番組に関する詳細は以下のウェブサイトをご覧ください.
>      番組ウェブサイト: http://www.nhk.or.jp/itwb/
>

クリエーターコードは、SnowLoepardから肩身の狭い扱いを受けるようになりましたね。悲しい。
http://www.tidbits.com/tb-issues/lang/jp/TidBITS-jp-1005.html#lnk0
http://developer.apple.com/mac/library/documentation/Carbon/Conceptual/LaunchServicesConcepts/LSCConcepts/LSCConcepts.html
ターミナルをほとんど使わないので、GetFileInfoの存在を忘れていました。ありがとうございます。

ふじむら

ウルフラムからのメール情報、ありがとうございます。僕のところにはまだ来ていないので、助かります。(僕も個人ユーザーとして登録してるんですが、これから来るのかしら)
NHK で取り上げられるんですね。楽しみです。

クリエーターコードの事情もありがとうございます。これも知らなかったです。
拡張子が同一であっても別々のアプリケーションに明確に対応づけられるクリエーターコードという仕組み、秀逸だと思うんですけどねぇ。残念です。

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